ワレンダ要因 【サーカス・サラソタのレジェンド】

先月、NYのタイムズスクエアで、綱渡りのパフォーマンスが行われた。


BRAD BARKET/GETTY IMAGES FOR DICK CLARK PRODUCTIONS

25階建てのビルにかかった約400メートルのワイヤの上を20分かけて歩いたのは、綱渡りギネス記録保持者であるニック・ワレンダと、その姉のリヤーナ。

彼らは一体どういう人たちなのだろう。


ワイヤーの王、ニック・ワレンダ


ハーネスがつけられていて落ちることはないと分かっていても、この高さで、しかも20分間の綱渡りだなんて想像を絶する。


タイムズスクエアには群衆が詰めかけて、緊張の面持ちで見上げていた。2週間後の一昨日、マンハッタンは大停電に襲われたので、その日でなくてよかった!と心から思ってしまう。

本当は、どんなに高い位置での綱渡りでも、ハーネスや安全ネットをつけずにパフォーマンスをすることがニックの主義であるが、さすがにこうしたテレビ中継ともなると規定が厳しく、ハーネスの着用が義務づけられた。

もちろん、無事に成功した。

姉のリヤナは、2年前に事故を起こしたことがある。ギネスブックに挑戦するため、8人のパフォーマーたちがピラミッド型になって綱渡りのリハーサルをしていたところ、バランスが崩れてしまい、およそ9メートルの高さから5人が落ちた。リヤナは顔面が激しく床に叩きつけられて重傷を負ったのだ。

サラソタで起きたことなので、そのニュースはよく覚えている。彼らはこの街に住んでいて、家族7代にわたって綱渡りの伝統を受け継いでいる。フロリダで彼らのことを知らない人たちはいない。

そのときの様子が全米ニュースで流れ、インタビューとともに見ることができる。*落下の様子が出てくるので観覧注意



こうした動画についた殆どのコメントが、
『どうして練習なのに安全ネットを使わないの?信じられない?』
『自殺行為だね。』
というものだった。

本当にそうだ。経験を積んだニックだけならまだしも、彼ほど経験がないであろう彼らが、こんな難しい体勢での綱渡りを、安全ネットもハーネスもなしに挑戦するだなんて!

しかし、動画を見て分かるとおり、これは彼らにとって伝統である。先祖の芸を引き継ぎたいという強い意思によるものであり、「ギブアップはしない」というメンタルが家訓でもあるのだ。

この事故により、リヤーナの顔面のすべての骨が砕け折れて、73本のネジを入れる大手術となった。いまだに踵に痛みが残っているそうだ。

今回の復帰は自分の中にある恐怖感の克服だけではなく、前進することの大切さをみんなに伝えたいと言っているのだから、マインドの強さは、もはや普通ではない。

ニックはサラソタの地元で、こんな綱渡りもやってのけた。6年前のことだ。


こんなの、たいしたことないよ~、へへ。みたいな感じである。ハーネスも安全ネットもつけていない。なんと、運動靴を脱いで靴下である。地上およそ60メートル。

この写真を眺めているだけでも手に汗が出てくる高所恐怖症の私は、万が一彼が目の前で落下したら、自分の一生が狂うほどトラウマになると分かっていたので、見に行かなかった。

この1年前の2012年に、ニックはあのナイアガラの滝の上の綱渡りにチャレンジして、成功している。
ナイアガラの滝に行った人ならわかると思うが、滝つぼの凄まじさは相当なものだ。近づいただけで、人間の小ささを痛感せずにはいられないほど、どこか死を意識させるほど壮大だ。

ニックは、子供の頃から、この滝の上を綱渡りしたいという夢があった。

簡単なことではない。アメリカ側とカナダ側からの許可がいる。準備支度やスタッフを始め、すべてのことに資金がいる。メディアとの契約、約束事。ぎりぎりになって、安全ハーネスの試着を強いられることになり、彼はものすごく落胆するが、それはもちろん、飲むしかない。


ハーネスをつけていたということで、「別に落ちても死ぬわけじゃないし」とバカにするコメントや批判も多かったのは事実だ。安全対策をしたことで、この成功の価値は下がってしまっただろうか。私はそうは思わない。この中継を見ながら、彼の集中力の偉大さに、感動したのを覚えている。

翌年、ニックはグランドキャニオンの綱渡りを、ハーネスなしで成功させた。地上、およそ460メートル。NYのエンパイアビルよりも高く、当然ながら、風もある。家族がよくも許したものだと思ってしまう。




グランドキャニオン側は、当然そうしたリスクのあるパフォーマンスを許可しないが、ここは正確にはナホバ族のリトル・グランドキャニオン。

その場所にせよ、ナイアガラにせよ、リックは自分の夢を叶えてくれた場所を使い捨てにすることはしない。約束通り経済効果をもたらし、その他色々と地元貢献する様子も伝えられている。

高いところで屋上でとんでもなく危ないことをするYoutuberやインスタグラマーが珍しくない今、ニックの目当ては何だろうと思う人たちもいるかもしれない。刺激を求めても満たされることがないの?富と名声が欲しいの?注目を浴び続けたいのか。

でも、私は違うと思う。

彼は高級住宅地にも豪邸にも住んでいない。びっくりするほど地味な住宅街の普通の一軒家に家族で仲良く住んでいる。

上の動画の1;48くらいのところで、綱渡りをしている老人がいる。
ニックの曽祖父で、73歳のときに高所綱渡りをライブ中継している最中に転落して命を落とした。

ニックはこう言って涙をぬぐった。
僕の家系は7代にわたって綱渡りをしてきた。これは僕の家系のレガシーであり、僕はそれを受け継いでいるんです。僕にとって、この成功は、非常に名誉なことなんです、と。

数年前、同じく曲芸師の妻とサーカスのパフォーマンスで共演した際に恋に落ち、綱渡りの途中でプロポーズした。
子供3人に恵まれ、いつも一緒の仲良し家族だ。
でも、子供達に綱渡りを引き継ぐことを強制することはないという。

死を意識する人生を背負っているせいもあるのか、信仰深くて、毎日の肉体トレーニングも欠かさないが、精神面とメンタルの土台とコツコツと築き上げてきている。

危険と隣り合わせの、こうしたストイックな人生は、多くの人に共感されるものではないのかもしれないけれど、彼の言葉は少しづつ『名言』化されはじめてきている。



以下、Wikiより。


ニック・ワレンダは、挑戦をする人であると自称している。
「『それはできない』とは思わない。それをやる方法を見つける」と彼は言う
自分が綱渡りするのは、神からの贈り物であると言っており、成功を神に信じている。

「聖書を信じる信心深い家族」で彼は成長し、「新生」の1人だと述べている。信仰は、「生活でも最も重要だ」と彼は言う。綱渡りを行う前にはいつも、彼は礼拝をする。また、綱渡り中には、常に十字架を身につけている。彼は、「聖書には、いつまでも祈らなければならない、と書かれている。私は常に祈っている」と言っている。ワレンダは自分は「正直な生活」を送っており、良い例であると話す。功績にかかわらず、彼は単なる男と見なされることを望む。「私は、人々に好かれることを願っている」と彼は語る。「あなたは一般人を得る。私は人々と関係を持つことを望んでいる」』 
 

そういえば、その昔、子連れ旅行でメキシコのプエルとプエルトバジャルタに赴き、ぶらぶら散歩をしていたときに、驚くべき光景に遭遇した。
可愛らしい民族衣装に身を包んだ男たちがどやどやと目の前に集まって、パームツリーよりも高い柱に次々に登りはじめたのだ。人々が周囲に群がってきた。何ごとかと思っていると、こんな空中パフォーマンスを始めた。


すっかり体に馴染んだ日常の儀式というかんじで、動きに無駄がなく、そこには恐れも緊張も見えなかった気がする。
反対に私の方がヒヤヒヤしながら見上げていた。
調べてみると、数百年も前から続く雨乞いの儀式だそうだ。今は観光客向けにパフォーマンスのみしているのかどうか分からないが、深い尊敬を抱いた。彼らの意識や集中力は、一体どうなっているのだろう。あるいは、こうしたことは、できて当たり前というマインドなのだろうか。


ワレンダ要因という言葉

ところで、『ワレンダ・ファクター(ワレンダ要因)』という言葉があるそうだ。

アメリカの経営学者でありリーダーシップ論で有名なウォーレン・ベニスが、その著書『On Becoming a Leader の中で使った。綱渡りから落ちて命を落としたニックの曽祖父であるカール・ワレンダから取ったものだ。

本にはこんなふうにあるという。

『1978年に曲芸師のカール・ワレンダが綱渡り中に落下して命を落としました。

同じく曲芸師だった妻は、インタビューでこう答えていました。
カールはあのパフォーマンスの何か月も前から、落下のことばかり考えていたんです。そんなことは、初めてのことでした。まるで、ありとあらゆるエネルギーを『落下しない』という意識への集中に使っていたかのように。

綱を渡りきるということより、落ちることを強く意識していたのです。つまり、うまくいくことに意識を向けず、失敗についてばかり考えていたら、成功するのはむずかしくなる。。。


映画『ザ・ウォーク』



ザ・ウォーク (字幕版)
アマゾンプライムで観ることができます

2015年に公開された、高層ビルの綱渡りの映画
なんと、実話をもとにしたそうだ。
ニックの今回のパフォーマンスとダブルのだが。。

『1973年、フィリップは大道芸人として日銭を稼いでいた。ある日、歯医者の待合室で見た雑誌記事が彼の運命を変える。完成すれば世界最高層となる、ニューヨーク、ワールド・トレードセンター。そのツインタワーの屋上の間にワイヤーを架けて歩く・・・。フィリップは危険を承知で、この”夢”を実現させようと猛烈な勢いで走り始める。そして1974年8月6日、フィリップは”共犯者”たちと一世一代のパフォーマンスに挑む。だが彼らの行く手には、相次ぐ想定外のトラブルが待ち受けていたのであった。(アマゾンより)』

1974年8月7日(当時24歳)にワールドトレードセンターのツインタワー間を命綱なしで無許可で綱渡りした、逮捕歴500回以上のフィリップ・プティをジョセフ・ゴードン=レヴィットがリアルに演じた緊張感と感動に満ちた作品です。実話をもとにしたようですね。(アマゾンのコメントより)

実話のドキュメンタリーはこちら


マン・オン・ワイヤー
スペシャル・エディション


高層ビル綱渡りへのパッションが同じで驚かされる。いつか見てみようと思う。


シルク・ド・ソレイユ

ハーネスなしのスリルといえば、シルク・ド・ソレイユもあった!

3年くらい前にラスベガスで見たシルク・ド・ソレイユのビートルズの曲でパフォーマンスを繰り広げる『LOVE』があまりにも素晴らしくて忘れることができない。

手に汗握る連続でドキドキしっぱなしだったが、延々と続いているロングランだ。ステージの機能なども少しづつ進化しているらしひので、行かれる方には絶対に絶対にお薦めする。

  


  

ラスベガスにはご存じの通り色々なシルク・ド・ソレイユのパフォーマンスがある。きっと、どれもお薦めだと思う。全部観たいと思うのだが、ラスベガスに頻繁に行きたいとは思わないので、無理なのかもしれない(涙)

2013年に、「KA」のパフォーマンスで仏人女性パフォーマーが落下した。命を落とした彼女は、2人の子供を持つ31歳の若きママだった。


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